女性誌ar(アール)の企画で乃木坂46の堀未央奈さんに、合気道の指導をさせていただきました。ar6月号と7月号に連続して掲載されています。
連載『乃木坂46 - 堀未央奈がゆく 「おもてなし達人への道」』の第18回と第19回です。
関係者には発売日前に知らせていましたので、多くの人が見てくれたようです。6月号発売直後には、「立ち読みするのが恥ずかしかった」というおっさんが何人もいたので、見たきゃ買え。若い女性向けの月刊誌だから、立ち読みしてたら不審者だわと言ったところ、何人も買ってくれたようです。
下の画像は、それぞれAmazonにリンクしています。
どうして女性誌アールから話が来たのか?
これは瀬川さんから仕掛けたパブリシティ? と私がどういう仕事をしているかを知る道場の人から聞かれました。いや、そんなことするわけないし、ar(アール)なんて思いつきもしなかった。依頼があって、最初は断るつもりだったんだからと言いました。
ある日、精晟会渋谷の問い合わせページからメールが届きました。
「小誌は20~30代向けの女性誌 http://ar-mag.jp/ で、 毎月2P、乃木坂46堀未央奈さんの「おもてなし達人への道」という連載がございます。 堀さんが様々な和の文化を学ぶ様子を、写真で追うという内容です。 今回は2号かけて、養神館合気道 精晟会渋谷様に、護身術としての合気道を初歩からレクチャーいただければと思っております」という内容が、アールから送られてきました。
arの誌名は知ってるけれども、読んだことがない。リンク先のウェブサイトを見ると、これは若い。20~30代向けと書いてあるけれども、うちの娘とかにも若すぎると思いました。そこで会員の大学生に聞いてみました。arのコアな読者層は、学生だろうと思ったのです。
返事は「知ってるけれども、読んだことがない」でした。そうだよな、年齢層が合っていても、クラスタがちがうよなと思いました。
しかし、武道とか合気道をやろうと思う人を「こういう人だ」と決めつけるのはおかしいのです。というのも精晟会渋谷は立ち上げて2年も経っていませんが、当初平均年齢は、ありえないぐらい若かったのです。19歳の女子大学生がふたり入会しましたし、体験に来るのもほとんど女性ばかり。
しかも20代で、動機の多くは「男の人をやっつけたい」「合気道でやっつけられるようになるかどうか」というものでした。
詳しくは、以前に書いた『若い女性たちは、どうして「男をやっつけたい」と思っているのか』を読んでみてください。
合気道の基本と、護身に使える方法を両立させればいい
アールの編集者が考えているところも、若い女性の護身。護身や護身術についてはいままでにも書いていますが、私はいくつかの段階・レベルで考えなきゃいけない。そして若い女性に必要なのは、速習できる「緊急時に止める方法」なのだと私は考えています。たとえば大学生なら、1年も経てば就活だとなって、じっくり何年も稽古することは難しい。
だとしたら、お役に立てるかもしれないし、やる価値はあるなと思いました。
それでも団体に所属している私が、勝手にそんな依頼を受けていいものなのかどうか。師範や諸先輩の承諾を得てということでしょうが、なんたって主役はアイドル。スケジュールはピンポイントで決まっていました。驚くほど、過密スケジュールのようです。
許可を取っていては間に合いません。お断りするにせよ、早急に返事しないと編集部に迷惑がかかります。6月号は5月12日売りなので、撮影設定日から入稿までの時間もあまりありません。
やるなら、私が今までにSNSなどで映像で公開しているものなら問題ないだろうと考えました。精晟会渋谷は、養神館の合気道をやっています。基本はあくまで養神館の技です。精晟会は、養神館の中団体ですが、養神館にない技もあります。
精晟会渋谷では私は養神館の技を、基本にはないやり方で説明するときもあります。一部だけ取り出して、稽古するときもあります。
型稽古としてやる基本技は、同じぐらいの体格を前提に構成されていますが、華奢な若い女性だと対応しにくいやり方もあります。また、私を含めて体の硬いおじさんには厳しいこと。あるいは逆に、隙がないようにやっていても体が柔らかく身体能力の高い若者には反撃されてしまうこともあります。そこをどうするかは、それぞれの工夫や応用なのです。
精晟会会長の松尾正純師範は「基本を基本通りにやってできるのは、当たり前。でもそれでいいのは三段まで。三段以上は、自分の応用ができなきゃいけない」「杖道をやっているなら、杖道の杖ではなく自分のものとして合気杖にしろ」とおっしゃいます。ごもっともです。言い方を変えれば、武産合気ですね。
とにかく2号分の構成は、頭の中ではできました。それを編集者が承諾してくれるかどうか、です。
編集者に私がやっている教室に来てくれ。そこで堀さんにやってもらおうと考えていることをお見せしますので、体験してみてくださいと連絡しました。
6月号では合気道の基本。礼法などを含め、剣をメインに使います。
7月号では通常の合気道ではなく、合気道の動きや理合い、当身などを使った護身メインの実践。
それらをざっと編集者にお見せし、一部体験してもらいました。OKどころか、ある当身などは「読者に役立ちます」と喜んでいただけました。あ、いや、この当身は誌面に載せると危険かも…
とにかくお教えする内容と時間配分を書類にし、ざっくりとした説明をメールでお送りしました。
ライターさんには当日先にお会いして説明するにしろ、文章化されたものがあればスムーズです。
時間配分はけっこう大切です。堀さんの入りが遅れることはあっても、お尻の時間は厳守ですから。
しかし不安はあります。それは主役の堀さんがスムーズに動けるかどうかということ。
一度のレッスンなので、技として使えるようにはなりません。それ以前に形ができるかどうか、です。実質2時間。普通、これだけの内容をやれる人はいません。普通というか私の知る限り、今までひとりも会ったことがありません。もしできなければ、時間内でやれるところまでやって成立するような区切り方にしようと考え、あらかじめ連続性のある構成にしました。
はっきり言って堀未央奈さんは素晴し過ぎました
当日、初めてお会いして「わぁ細いなぁ華奢だな」と思うと同時に、できるかなと心配になりました。ところがまったくの杞憂でした。
正座法、剣を持った構え、基本動作と、何の問題もなく進みます。こういう風に持って、このあたりを狙って、前膝をゆるめて進みますとか、基準になることを見せながら言葉で説明するだけでできてしまうのです。驚きました。
後日、6月号の発売前に精晟会の理事会があり、お見せできるものを提示して発表しました。すると師範の皆さんから「この子はあなたの道場に通ってるの?」 いえいえ違います。今回初めて、スタジオで2時間ほど指導しただけです 「よくそれでこんな風にできるね」という言葉が出るぐらい、驚かれていました。
私としては、私の教え方が上手なんですと言いたいところですが(笑)
そうではなくて、堀さんが素晴しいんです。
ここまでの精度でやってくれたのですから、感謝しかありません。
養神館の合気道は姿勢の力がメイン。形ができれば、それなりに力を発揮します。
構えのとき「前の手はみぞおちの前、後ろの手は帯の前、拳一個半ほど開けて。足は両方とも外を向いて、前足の方向を後ろに伸ばしたら後ろ足の方向と直角にぶつかる。間隔は一足半。一足はつま先から踵の端までの長さです」と言葉で説明するだけで、いっぱつでできてしまいました。鏡を見るならまだしも、普通はできません。
堀さんが初めての動きも言葉だけでできてしまうのは、体の地図が完全にできているから。右手の中指はどっちを向いてる。左ひざはどこにあるとか、目盛りの刻まれた定規とともに地図が感覚としてできているのでしょう。やはりダンスをやられているからでしょうか。
剣を持って構えるときは、二畳ほど先に敵を想定して、剣の向きを相手の顔に向けます。これもなかなかできません。初めてやった人は、はるか頭上を向いてしまうことが多いのです。ところが堀さんは、簡単にできてしまいました。これは体の地図ではなく、もっと先。ダンスというよりも、お芝居やパントマイムのようなイメージの作り方を体得されているのでしょうか。
受け身もやっていただきましたが、前に倒れる受け身では、顔をまもり、膝をまもります。そのため体の後ろ側、踵から頭の後ろまでがまっすぐ、水平になります。この受け身は形を作ろうとしても体幹はもちろんのこと、全身の筋肉がそれなりにないとできません。
堀さんはピシッとまっすぐに、できてしまいます。美しいです。筋肉もバッチリです。
中心軸だけ立てて、あとは脱力する実践もかんたんに
7月号は実践編です。技そのものではなく、合気道の動きや技の理合い、それに当身などを使って、自分より大きな人に襲われたりハラスメントがあったときに、どうするか。相手が何されているか分からないような、力感のない対処方法で構成しました。
そもそも合気道は、必要以上の無駄な筋力を使わないのです。もし筋力で対抗しようとするなら華奢な女性には向きませんし、若いときだけしかできない武道で終わってしまいます。
じゃあ何で力を発揮するのかというと、いちばんは重力です。重心の移動する力をロスなく伝える姿勢が重要です。そのほか、ポジショニング(位置取り)とかいろいろな要素が組み合わさっています。
腕を握られました。逃げるためには離脱法を使います。相手の指・骨格構造の弱いところを狙って、梃子の原理を使えるように動き、腕を抜きます。抜いてから相手の手首をつかみ、腕絡みという形に取ります。
腕絡みとは、通常は関節を極めるために使われます。合気道の多くでは、投げに使われます。投げるには斜め下方向に中心軸を倒して体重をかけて回るのですが、ここでは違う方法で倒すことをやります。
中心軸だけ立てて、中心軸で回るのです。腕絡みの形に持つけれども、ゆるゆるにしていて、相手の腕は自由度が高いのです。
最初の2秒ほどしか出ていませんが、下のツイートでも若い女性が大柄な男性を倒しています。
これ、中心軸をしっかり立てて、あとは力まずゆるゆるであればあるほど、簡単にかかります。やられている方は、ゆるゆるだから何されているのか感じにくく、対応できないのです。堀さんにも、編集者を相手にやってもらいました。
やはりダンスでしょうか。軸はきっちり立って、小さくスピンされました。編集者は、簡単に倒れてしまいました。
大概の人は、倒そうと力みます。力むと肩が上がったり、体軸が傾いたりして、かからなくなってしまい、さらに筋力を使って力むというマイナスのループに陥ります。
1度の説明であっさりできるのは、とにかく凄いです。理解力や軸など体だけではなく、性格が素直なんだなと思いました。疑わずに素直に動けるのは素晴しいです。普通は「力まず、ゆるゆるの方が倒せる」と聞いても、疑ったり、倒すことへの思い込みで力むのです。
すると堀さんが「これで、ホントに倒せるんですか?」と私に聞いてきます。
あ、疑われました(笑)
じゃあ私にやってみてくださいと腕を出しました。堀さんと私とでは、体重差1.5倍はあるでしょう。その私を、あっさり倒してしまい「ホントだぁ」と喜ばれていました。
もちろん技の構造を理解していれば逃げることも反撃することもできますが、体感してもらうためにやっているので抵抗はしていません。かといって倒されるために協力もしていません。
顔見知りの酔っぱらいぐらいなら、これができさえすれば、やんわり倒せるのです。
いや堀さんには、誌面に出さないでくれとお願いした当身も伝授しましたので、オソロシく強くなられたはずですから!