少し前に、海外で精晟会の稽古会を主宰している人が、精晟会渋谷の稽古に来られました。
「顔面突き肘抑え」という五級からある審査技を稽古しているときのこと、私が「盗み足というんだけど」と説明したら、おう盗み足ですか!とこの人が反応した。
今まで合気道の人に盗み足という名称を使って、それだけで伝わったのは初めてでした。
もちろん名称がないだけで、合気道にも盗み足的運足はある。
といっても、それを教えられて稽古したのは1度しかありません。精晟会の鎌倉指導者研修合宿で、正面打ち正面入り身投げ(二)の稽古だったと思う。受が打ってくる正面打ちに対して、まっすぐに後ろ手を上げる。
そのときに前足は、事前に少し斜め前に出しておく。後ろ手をまっすぐ上げながら、前足を足指の方向にスライドさせるから、相手の正面打ちを擦り上げる形になるというものだ。
この稽古を昔は竹刀でやっていたというから恐ろしい。上げる手が真っ直ぐじゃないと竹刀が肘などに当たって、たまったもんじゃないという話でした。
動きを単純に言えば入身だけど、ほぼぶつかるように入る。どうしてかというと、斜め前に入ろうと頭が動けば、受はそっちを打ってくる。そうこの手の技法は、頭の位置をギリギリまで残しておく。
正中線を残したまま、前足が動いている
そうギリギリまで頭、正中線を残しておくための足づかいが「盗み足」。つまりは相手も欺いている、目で知覚されないようにしているから、盗み足という名称なのではないでしょうか。用語として盗み足というワードを使った方が、私は術理も理解しやすいと思っています。
合気道では、特に多人数取りなどになると、当たる場所を打たない、突いていかない。あるいは早々と逃げてしまうという悪しき傾向があります。それってもう武道の稽古じゃないですよね。
慣れるまで安全に稽古するなら、ゆっくり、でも当たるところを突くようにすればいい。
とはいえ五級審査で「顔面突き肘抑え」があり、この段階で逃げないことを試されるのは、かなり大変。だからなおさら、私は盗み足を盗む足として説明しています。
私は「顔面突き肘抑え」では、後ろでは顏の前まで上げるだけ。足が動くだけと説明します。
動かさなくても突きは、若干逸れていきます。三角に中心を護ります。
盗み足は、たぶん剣術の言葉。多くの剣術の流派で使われていると思います。
この海外の稽古会主宰者も、かつてやられていた剣術で盗み足があったと言います。
しかし「養神館の構えで、盗み足が使えます? 腰強いですね」と聞かれました。
そう、養神館の構えだと、盗み足を使うのは大変です。なぜなら6対4で前足加重だから。
前足加重から、前足を半足分でも前に滑らせて、なおかつ中心軸を不動にするためには、きっと大腰筋とか腰骨筋などがかなり強力じゃないと無理でしょう。
想像ですが、インナーマッスルで脚を引っこ抜く感じ。私は、そんなインナーマッスルありません💦
だから私のやっている盗み足は、養神館の構えで無理なく使えるようにしたオリジナル。悪く言えば創作です。
養神館の構えで、盗み足を使うには
盗み足は正中線を動かさない。正面から見た真ん中のラインが動いてなければ、相手からすれば狙うべき的はそこにあると認識される。正中線は動いてないのに、でも脚は大きく動く準備にかかっていて、実際は少し動いているという状態。
ならこれでいいんじゃないと私がやっている方法が、こちらです。
正面突きや顔面突きの場合、相半身で構えます。右半身なら、受が右足を引き突く準備をするのに合わせて、仕手は左足を進めて、相半身になります。
受けが動き出したら、左足の拇指球中心に踵を回転させます。
実際には見せませんが、踵はほとんど浮いているような状態です。これなら正中線を動かさずに、前足が方向転換することができます。
右手(後ろ手)は正中線上(ブルーの線)に残したままのつもりで左足は斜め前に
スライドしながら、右足を回転させます。
右足はそのまま回転させ、突いて来た腕に対して斜めから構えた体勢になります。
受の手首付近に右の手刀と、肘より少し身体側に左の手刀を当て、前方下に落とします。
顔面突き肘抑えは、落とすところまで。自由技なら肘締めに行ってもいいし、小手返しもできる。
落とすところまででいいのは、逃げずに突きを外す体捌きを体得することが主眼の審査技なのだと思います。
今回紹介した方法でもやれますので、よければ試してみてください。