『サッカーと感染症 -withコロナ時代のサッカー行動マニュアル』という本を読みました。
サッカーに興味はないのですが、今のところ感染症の専門家が、スポーツ・運動現場の行動指針を書いた本はないと思います。
本じゃなくても、感染症の専門家が、スポーツする現場に関しての発言を探せません。この先生の本がもう一冊あるだけのようです。
著者は岩田健太郎さんといって、あのダイヤモンドプリンセス号に感染症の専門家・医師として乗り込んだら、厚生労働副大臣が「俺は聞いてない」と追い出したことをきっかけに有名になった神戸大の教授です。小学生のころから、ずっとサッカーをやられていたそうです。
稽古すること自体に、感染する・感染させるリスクはあります。
それは通勤電車に乗ったり、対面で仕事したり、飲食店で食事をしたり、混み合ったスーパーやコンビニに行くのと比較すると、軽微な確率なのではと思いますがゼロではありません。一方で完全リモートの企業だと、感染したら自分の責任というプレッシャーが半端じゃないと聞きます。
感染症のリスクをゼロにするなら、ひとりで家に閉じこもっている選択肢しかありません。
だからリスクはゼロじゃないけれども、合気道がやりたいという人に、どれだけリスクを減らしながら、リスク以上の価値ある稽古を提供出来るかというのが私の課題です。
これはもうコロナ以前から同じで、運動である以上、ケガや故障のリスクもゼロではありません。そのリスク以上に心身の健康にどれだけ貢献できるのか、楽しいか、護身に役立つのか、などを追求するのと同じ視点です。
武術的な本質は、リスクコントロールではないでしょうか。鉄壁の護りとか必殺技みたいな言葉は、言葉遊びでしかなく、本来は確率論で成り立っているはずです。
なんであれ、最悪を想定していない武道は成り立つはずもないと思います。
あらゆるリスクを考えられるはずもないですが、どの程度のことなら対応できるのかを理解していないと、妄想でしかありません。
最近見たある団体のサイトに「いかなる暴力にも対応」とあったので、凄いな。私はそんなこと絶対言えないし、個人的にも目指していません。稽古中、短刀や杖に対する技でも、「当たり前に外せるとは思わないように。本当にできるためには、そればっかり何年も稽古してなきゃいけないし」と言います。勘違いや妄想ほど、恐ろしいものはないです。
それでどんな団体なんだと動画を見ていたら、いやぁその稽古と反応だと、家庭で奥さんを怒らせて叩かれても、避けられないかもねと(笑)
ともあれ、リスク以上に価値のある稽古をどうするかです。
感染症は精神論で防げませんし、これまでの内輪の経験則や常識が通用しません。
リスクが大き過ぎるという事態になれば休止しますし、何年も続くようなら解散します。
その判断をするのに、サッカーであれ、感染症専門家の指針は貴重です。
本の中には「悲観的なシナリオを想定すると怒られる日本」という見出しがありますが、現実のリスク管理は“最悪も”想定しないと、始まりません。
【さまざまな感染症のリスクがあると考える】
この本には、コロナ以外の感染症のリスクも書いてあります。
最近でも、国内で結核の集団感染がニュースになっていますが、コロナ以外にもいくらでも感染症のリスクはあると考えておくのが当然の時代になったのではないでしょうか。
新型コロナではない、従来のインフルエンザでの死亡者数がここ数年急増していて、2019年も1~9月の集計で3000人超。怖いのは新型コロナウイルスだけではないと考えるのが、当たり前のことになっていると思います。
本書の内容ではありませんが、行方不明になっているコウモリ女と呼ばれた武漢ウイルス研究所のトップは、中国ではいくらでも新しい感染症が発生すると語っていたという話もあります。
事実かどうかはわかりませんが、中国ではCOVID-19以前にも、SARS-CoVやMERS-CoVが発生しています。
エボラウイルスによる感染症は、アフリカ中央部で発生したものですが、スペインやアメリカなどでも確認されています。つい最近、2020年6月にも、コンゴ民主共和国でエボラ出血熱の新たなアウトブレイクが発生が報告されています。
新型コロナ以前にも、2000年以降は毎年のように、何かしら起こっています。
これからだって、いくらでも変異や新種が発生しそうです。国内で封じ込めたとしても、鎖国でもしない限り、いくらでも入ってくるでしょう。
呼吸器疾患以外にも、南米由来の白癬菌による強力なトリコフィトン・トンズランス感染症が、柔道や格闘技の選手、部員の間で集団発生し、競技が中止になったり、感染者を大会に出場されないなどの事態が発生しました。
全日本柔道連盟が方法を打ち出しています。それによれば、2001年に日本に持ち込まれ、2016年に再び流行の気配をみせているとあります。
合気道はそこまで密着はしない。だから関係ないかというと、同じ武道場や更衣室を使っていれば、もちろんリスクはあるのです。
本書では、サッカーに直接関係するものとして、選手はA型肝炎とE型肝炎に気をつけろとあります。ウイルB型、C型は血液と性交渉でうつるとされ、プレイ中の出血でリスクがあるとされています。このあたりはもう、ジャンルに関係なく常識的なところです。
【マスクでは感染経路を遮断できない?】
本書では、感染経路があるから、感染症は起こる。パスツールが100年以上前に発見したもので、微生物、ウイルスなどが身体に入ってくる道筋は決まっているから、そこを遮断してしまえば、絶対に感染は起きないとあります。
コロナウイルスの場合、主な感染経路は2つ。触るか、飛沫。この場合の触るとは、ウイルスのついているところを手で触れて、口に持っていくことを指しています。
触ることは、手洗い消毒で回避。飛沫は距離をとること(ソーシャルディスタンス)で回避とあります。この場合の飛沫は、くしゃみ・咳・大声などで起こるものという解釈のようです。
著者はマスクに関して「ザルディフェンダー」としています。鼻でもほっぺたでも、いくらでもスキマがあると。そして「マスクをしているから近づいてもいい」ではなく、「マスクはしなくてもいいから距離を取りましょう」とされています。
マスクに関しては、感染症の専門家でも、さまざまなニュアスの違いがあるようです。「マスクをしていても近づいてはダメだ」としたら、電車などの交通機関を使えなくなってしまいますので、様々な配慮があるのかもしれません。
岩田先生は、地下鉄に乗っているときでも、2mの距離は開けるように心掛けている。街中でも意識的に首を振って周りを見ているとお書きになっています。
これはサッカーにコンセプトが似ていると(笑)
うーん、そうなのか。
しかし神戸の地下鉄は、2mの距離を開けられるほど混み方なのか。現在の首都圏の電車で2mの距離を開けられるとしたら、早朝だけかもとか。
【サッカーのプレイ自体にリスクは少ない?】
あまりネタバレするわけにもいきませんので、興味があれば買って読んでください。
感染症の専門家でも細かな基準は様々ですが、この先生は明け透けなので、どこかに配慮した見解はないと思います。
いや、一点だけ、アレ?と思うところがあります。少なくともサッカーのプレイ自体は、接触しても一瞬だからリスクは少ないとあるのです。
サッカーは走り回るので激しい呼吸になっていると思います。激しい呼吸でも、一瞬の接触なら「大したリスクではない」というのは、ちょっと理解できないところです。接触時に、鋭い声が出るのは多いと思いますが…
こうあります。
「例えば、学校が元に戻って授業をするとなった時に、普通の授業を受けるよりも屋外でプレーする方が圧倒的にリスクは小さいんです」
これ以上は書かれていないので推測でしかないですが、たぶんリスクの比較ということですね。室内での授業を1時限受けるより、屋外でサッカーを1時限やる方がリスクは少ないと。ゼロではないが、普通の授業よりもマシだ、ぐらいでしょうか。
空気中のウイルス密度と、それにさらされている時間の比較で、リスクを測る。ということかと思います。
結局はステイホームじゃなければ、リスクはゼロではない。ゼロではないから、再開するなら、リスクの大小強弱を考えて、取捨選択しろ。小さい方から優先して、考えるのが合理的。
そう、私は解釈しました。
この本は5月に書かれたようですが、著者はJリーグの無観客からの再開を主張されています。
再開するなら、リスクの小さい方法から始めるべきという私の解釈は、それほど外れてはいなさそうです。
しかし、サッカーはともかくとして、合気道はどう考えていけばいいか。
私にとっては、そこが問題です。
触れない合気道をやろうと休止期間中に準備して、6月からの稽古再開では、剣杖を使って稽古しています。それでも技をおこなうときは、ソーシャルディスタンスで言われる2m、最低1mの間隔どころか、50cmも離れていない。
7月からは徒手の技もやる。ただし全体の1/5以下の時間、うちの稽古だと20分以内と決めてやりはじめましたが、今後はどうするのか。
【どういう合気道の稽古にするべきか】
ワクチンが開発されるのは、最短を言っている人でも12ヵ月。そこから認可、量産化ということになればさらに1年程度はかかりそうです。
現在の情報では、ジョンソン・エンド・ジョンソンが9月までにワクチン候補の臨床試験をすると発表していて、上手く行けば来年中に供給できるそうです。
ということはドラスティックな環境変化が起こるのは、最低でも2年以上かかるだろうと考えて良さそうです。
だからwithコロナのあたらしい生活様式が必要だということでしょうが、合気道をどうするのか。
東京を中心に首都圏では、感染が再度拡大してきました。
再度、緊急事態宣言や自粛要請が出れば、稽古を休止します。
半年も続くようなら、団体として解散します。
稽古は出来ても、エアーで型をやるぐらいしかできないなら休止します。
コンティンジェンシープラン的に、そう基準を決めています。
現状では、稽古できる環境なので稽古します。
稽古場所はドアや窓など、稽古前から開放しておく。エアコンもつけ、扇風機などもあるだけ回し、外と内との空気の入れ替えを可能な限り行う。
岩田先生によると、触ることは手洗い消毒で回避できるということなので、今まで通り手洗い・エタノールによる消毒は徹底して、接触時間も制限しながら徒手の技も行っていきます。
しかし、国・都でチグハグでも何らかの警告が出れば、徒手の技は取りやめます。
メインは、やはり杖取りです。
杖取りでは入身すると、かなり接近します。私は武器相手の前への入身は、間合い的に危険だと言いますが、その方が理解しやすいし、簡単だからと行っていました。
今後しばらくは、杖取りもできるだけ入身しない方法で行います。
また気合いはもちろん、接近したままでの説明なども控えるようにします。
【マスク着用についての考え方】
マスクに関しては、岩田先生は「ザルディフェンダー」だとされていますが、防御のためではなく、自分が感染者で無症状かもしれないと考えれば、人に感染させないためにはマストだと思います。
マスクが完全じゃなくても、近づくことがある以上、多少なりとも軽減できる可能性があれば着用が不可欠だと思います。
稽古をするのなら、軽減できる可能性があることは、なんでもやるべきではないでしょうか。それにマスクをしないで、周囲を不安にさせることに何の価値もありません。
別の言い方をすると、稽古の場では、個人差は大きいですがゼイゼイと息が上がるほどの強度では行わないようにしています。マスクをしていても荒い呼吸になるようなら、それこそザルになってしまいます。
マスクをしていると呼吸がしづらいということはありますが、息が上がるほどの強度で稽古しないなら、問題はないと思います。
呼吸のことよりも、マスクをすることの危険性は熱中症です。
「高温や多湿といった環境下でのマスク着用は、熱中症のリスクが高くなるおそれがあるので、屋外で人と十分な距離(少なくとも2m以上)が確保できる場合には、マスクをはずすようにしましょう。マスクを着用する場合には、強い負荷の作業や運動は避け、のどが渇いていなくてもこまめに水分補給を心がけましょう。また、周囲の人との距離を十分にとれる場所で、マスクを一時的にはずして休憩することも必要です」とあります。
冷房をし、ドアや窓を開放して空気が流れていると、湿度がどうなっているのか分からなくなります。壁にWBGT計があったとしても、空間内のWBGTにはかなりの差がありそうです。
喉が渇いていると感じたときには、すでに脱水症状が始まっていると考えた方がいいので、マスク着用していれば、なおさら先に先に飲んでおく必要があります。
精晟会渋谷では、こまめに水分補給するタイミングを作っていますし、本人のタイミングで自由に飲んでくださいとしています。
マスクをせず、フェイスシールドをするという選択肢もあるかと思いますが、受け身をするのでなかなか難しいと思います。受け身をするなら、フェイスシールドでケガをしてしまう可能性が高いのではないでしょうか。
逆に受け身をしない稽古というのは、今のところ考えられません。
【稽古場所の環境面での問題】
あまりネタバレするのもと書いておきながら、すみません。これが最後です。
スクールなどの再開に関して、本書では「保護者の世間話集団が最も危ない」としています。リスクはゼロではないが、サッカースクールやクラブ、部活の活動はできる。しかし、プレーをすることよりも、保護者が集団を作る方がよっぽど危ないと書かれています。
その通り!ではありませんが、私もほぼ同様のことを思っています。
コロナ以前からありましたが、コロナ禍でもっとひどくなっていることがあります。
ある公共のスポーツ施設の緊急事態宣言解除後に営業再開では、団体の代表者に参加者の管理を任せています。管理というか責任ですね。
書類で、参加者の中に◯直近2週間で発熱、せき、喉の痛みなど ◯同居家族や身近な知人に感染症を疑われる者 ◯過去14日以内に政府から入場制限、入国後の観察期間を必要とされている国、地域等への渡航、または当該在住者との濃厚接触 がないことを提出します。
そしてもし、◯利用後2週間以内に新型コロナウイルス感染症を発症した場合は、報告するとなっています。利用人数も告知しています。
現在の状況ではしょうがない、これぐらいの徹底は必要だと思います。思いますが実際には、かなりザルですし、むしろやっかいな事態を起こしているかもしれません。
いつでも、どの団体でもということではなく、子ども向けの稽古をしている団体と同じタイミングだと、こんなことに遭遇します。
複数ある武道場をつなぐ通路で、小さな子供たちが密になって遊んでいるのです。推測でしかないですが、お兄ちゃんたちが稽古をしている。その兄弟たちが施設に一緒に入って、遊んでいるのだと思います。
ここを杖などを持って通るだけでも、やっかいです。
保護者の数はどう見ても合わないので、施設から出ているようです。サッカースクールやクラブのように見学しているのではなく、たぶん稽古をしている兄弟と一緒に入場だけして、遊んでいるのです。
この子どもたちは、どう管理されて入場しているのか不思議なところです。
子供たちの遊び場がないのは、理解します。しかしコロナ禍で、団体の代表者が責任を持った人しか入場できないはずの施設内で、通路で遊ぶのはどうなんでしょうか。
管理されているから、子どもには安全な環境で、むしろ親が放ったらかしでも遊べる穴場になっているようです。制限しているから、施設の利用人数は以前と比較すると、極端に少ないのです。
先日経験したケースでは、稽古しているのは指導者以外には子どもが3、4人。でも外で遊ぶ子どもは10人以上で、保護者らしき人が2人だったのです。人数からすると、兄弟ですらないのかもしれません。
団体の代表者と一緒に入場しているはずですが、お金を払っている利用者ではないでしょう。自由には施設に入れません。ところが小さな子どもへは、対応していないのかもしれません。この子たちは、油断するとこちらの武道場内に飛び込んできます。
もちろん子どもだから感染はしていない・感染しないわけではない。「保護者の世間話集団が最も危ない」と同様に、「子どもの遊び場になると危険」と言えるでしょう。
稽古することのリスクを少しでも減らしたいのに、稽古場所までのリスクがさらに増えてしまっていることは難題です。
この場所はしばらく使わない。という選択肢も、もちろん検討しています。