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痛くならない膝行の方法


痛くならない膝行の方法

私、初心者のころは膝行がキライでした。いや、今でも好きではありませんが(笑)

理由はもちろん膝が痛くなるからです。現在では痛くなりませんが、それでも疲れてしまうし、得意ではありません。たぶん稽古量の問題。それほど稽古してこなかったのです。

自分で工夫しはじめたのは、三段審査を受けるころ。精晟会の三段四段の審査は、半分以上が座り技で構成されているのです。

三段四段の稽古は、相手もそれぐらいの人ばかり。皆呼吸力も強いので、そう簡単には動いてくれません。ましてや座り技になると、立ち技のように小手先のテクニックでは誤摩化せません。

養神館の場合は腰をひねらないし、そもそも中心力を重視しているのですから、座り技でも中心線に鼻腰足手など全身を一致させて動きます。

審査の座り技では基本の膝行だけではなく、二の膝行や回転の膝行も必要になりますが、そこで必要な身体の使い方が理解できてきた。こうすれば相手を動かせるし、無理がない。無理がないから、膝も痛くならない。

ということが、分かってきたのです。

【初心者は膝行をしない方がいい?】

精晟会渋谷では、基本動作や受け身のように、毎回のように膝行を行うことはありません。

理由は、まず構えや基本動作、斜行などで基本的な身体の使い方を習得しないと、膝行を行っても意味がない。むしろ膝を痛める危険があり、弊害の方が大きいのではないかと考えているからです。

こんなことを書くと膝行は合気道に不可欠、初心者から行うのが当然だと苦情が来そうですし、マニアックな内容になってしまいますが、現実問題として膝を痛める人は少なくないはずです。

Twitterなどでもたまに膝行で膝を痛めた。整形外科で膝蓋腱炎と診断された、などのツイートが流れてきます。

そういうのを目撃すると、私は膝行の方法が正しいか正しくないか以前に、筋力は問題ないか?と思います。そして足指や股関節、腰椎の柔軟性は十分かと思ってしまうのです。

和式トイレで育ってきた人たち、畳の部屋が当たり前のある世代とは、下半身への負担が違うのです。私の家は、小学校の低学年までは和式トイレでした。でも現在はフローリングばかりで、畳さえありません。

日常生活の中で、膝や股関節を曲げる角度がまったく違うのです。和式トイレを使っていれば、毎日スクワットをしているようなものかもしれません。

さらには近年では、膝行の前提となる正座そのものさえ、伝統的な作法かどうか怪しいという説が拡大しています。

千利休はアグラをかいていた説が出たり、徳川家光が謀反を起こさせないため、最も立ち上がりにくい、つまり刀を抜きにくい座法である正座を作法とした説が言われたりしています。

真偽はともかく、21世紀の日常とは違いすぎるのです。

イスに座りっぱなしの仕事なら、ほとんど使っていない筋肉や筋が下半身に集中した状態かもしれません。膝行をするには、正座から爪先を立てた跪座になります。跪座では骨盤を立てる。立ててから前に傾けると私は説明しますが、立てられない人も少なくありません。

そんな人が一気に膝行、そして座り技をやり込むということは危険です。

だから基本的な身体の使い方を習得し、筋力や柔軟性がそれなりについてきてから段階的に行うことが必要。また長年合気道をやっている人でも、痛める危険性の高い人には、チェックポイントを伝えてなくてはと思います。

近々膝行の方法についての動画を作りますが、解決方法は映像にしにくいです。

筋力や柔軟性に欠ける人は、まず合気道以外のトレーニングが必要になっているはずです。例えば跪座で腰が丸まってしまう人は、毎日長時間そんな姿勢になっているはずですから、合気道の稽古の時間だけでどうにかなるわけがないのです。

※膝行の動画を作りました

【痛めず膝行するには膝で歩かないこと】

膝行の解説では、膝を支点にとか膝を回転軸にというものが多いと思います。外形的には、そう書くしかないかもしれませんが、あまり適切ではないと思います。

もし全体重を片膝にかけ、それで回転すれば、若くても一気に膝を壊してしまうかもしれません。

痛めないためには、膝にかかる体重をできるだけ減らすことではないでしょうか。できるだけ減らすには、膝で歩くという字面からの印象を捨てた方がいいかもしれません。

精晟会渋谷でどうやっているかというと、まずお尻歩きをやってもらいます。

お尻歩きもダイエット用などでは片尻を上げ、腰をねじるようにするようですが、腰はねじりません。足を伸ばして、腰をねじらないようにします。それで前や後ろに進もうとすれば、私の言い方だと股関節を意識して、股関節を押し出すように、あるいは引っ込めるようなイメージを持ってもらいます。

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こういう発想をどこから持ってきたかというと、伊藤昇先生の「股関節の捉え」です。

伊藤先生は、塩田剛三先生のことを「塩田先生の身体には三本の線が感じられます。一本は身体の中心を貫通する直線。もう二本は左右の肩と股関節をつなぐ直線です」とおっしゃっています。

もっと詳しく知りたい方は、『天才・伊藤昇と伊藤式胴体トレーニング 胴体力入門』を読んでください。

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それで股関節で歩くというイメージが持てたら、今度は膝行です。

跪座になっているとき、こんな感じになっています。

陸上競技・短距離走のクラウチングスタートでは、スターティングブロックを使用しますが、爪先立ちになった足裏が、このブロックに相当しています。

この場合、右足を進めるので、スターティングブロックは左足だけです。

メインになる動力源は左股関節周りの筋肉。足からも腹からも左股関節に力を集め、後ろに引くイメージです。上体は前に倒れようとしますし、左足親指も蹴り出します。

後ろには足裏のスターティングブロックがありますので、右半身が前に飛び出します。あえて右半身と書いたのは、いわば身体を割って使うこと。少なくとも右膝だけが前に出るという感覚はありません。

右半身が前に出ると、それに引っぱられるように左足も引きつけられます。

バイオメカニクス的にはどうなのか分かりませんが、感覚的な説明だと、以上のようなことをやっています。

これなら力みはどこにもないし、出だしは左足指に力がかかりますが、膝が長く支点になったり、体重が大きくかかるということもなさそうです。

書いているのは膝行に関してですが、二の膝行も回転の膝行も、メインになる動力源は股関節周りの筋肉。たぶんインナーマッスルを総動員すること。

これが難しく動くように鍛えることが必要なら、長座でお尻を上げず、腰をひねらずにお尻歩きをしてみてください。跪座になったときに腰が丸まるようなら、日常の座り姿勢を矯正するか、「胴体力トレーニング」をやってみてください。

足裏足指が弱いようなら、養神館の基本動作を繰り返したり、基本技を行えば強くなるはずです。

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