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それじゃあ、どれだけ運動すればいいのか?


先日の稽古前に、腰が痛いという人の話になって。ある人が「バランスボールに乗って仕事すればいいんですよ」と言うと、別の人が「腰痛でバランスボールを使ってたら、余計に痛くなった知人がいる」と反論。

私が「バランスボールに座ってゆるめるための、その筋肉すらないんじゃないの」と口を挟みました。いつも体を固めて座っていた人が、ゆれるバランスボールをイスとして使うには、それなりの体幹のインナーマッスルが必要ではないでしょうか。そこが欠けているなら、むしろ痛めやすいはず。



私の推測が妥当かどうかは分かりませんが、今回の話に登場するのは、ほぼリモートで仕事している人たちなんです。たまに出社するけれども、あとは在宅でほぼ座りっぱなし。

コロナ禍で何年もそんなスタイルだと特別に何かしないと、とんでもなく運動不足だし、身体の使われ方が偏っていると思います。



少なくとも、精晟会渋谷の会員は稽古に来ているのですから、合気道をしている。週二回の稽古に来ていれば、トータル4時間。でも週に二回来る人は、あまりいません。

そんなぐらいだと合気道どうこう以前に、生きて行く上の運動量として、ぜんぜん足りないと思います。いや週二回でも量も質も、まったく足りない。

さらに言うなら合気道の場合は、上達すればするほど楽に動けるようになるので、運動量、運動負荷としては、上達と反比例してしまいます。




リモート中心で失われた日常的な運動


私自身としては、歩いて駅に行く。階段をのぼる。電車中で立つという日常が、コロナで失われただけでヤバい。鍛えるとかじゃなく、それまでの身体を維持するためになんとかしなきゃ、とやりはじめた内容は、こちらに書いた通りです。




リモート勤務は、コロナ禍の感染防止で始まり、やってみるとオフィスを一頭地に構える必要がなくなり移転。あるいはフリーアドレスにして、面積を縮小。固定費削減につながった。

みたいなことで、業種的にはリモート可能でも、なんだかんだ理由をつけて出社させたがりそうな昭和な企業でも、導入を続けているところもあるそうです。

そうなると世界的なパンデミックが終わっても、ほぼ出社不要のスタイルは続きそうです。



リモートじゃなくても、一般的に筋肉量は20代半ばがピーク。30歳からは減少していくだけ。そういわれているので、何もしなければ筋肉量は減り続けます。


だから道場では、とにかく運動しといてくれ。歩くことが少ないなら、湯船で跪座でゆらゆらするとか、タオルギャザリングするとか足裏足指も使っておく。なぜなら、使われない機能は衰えてなくなるだけだからと。




腰が痛いという人には、一般的なピンポイントで効かせる腹筋はやらなくていい。まずシンプルなプランクで、分散して体幹全体に効かせた方がいいと話します。

プランクにも、いろいろあります。シンプルなプランクとは、こんなポーズをキープすること。画像は、前倒受け身をした瞬間ですが、形は同じです。

前倒受け身-プランク

すると、このポーズは出来ても、痛くなってきて何十秒も続けられないと返事が返ってきたりします。え!? これすらキープできないと、走れなくなるかも。

じゃあ高いEMSを買って、リモートの間、何時間も装着しておく。それも前だけじゃなくて、後ろも横も、お尻の上の方にも使うとか。



ところがEMSって、難しいんです。一般に売っているのは、家庭用。安いものは筋肉まで届かず、体表がピリピリするだけという笑えない話もあります。

一方で医療用業務用は、アスリートの筋力アップの一助として使われていたり、ケガなどで固まった凝りをほぐすリハビリのために使われています。この差は、大きすぎます。


だから家庭用を買うなら、高いものをという無責任なことしか言えないのです。

でも、筋力不足だけど腰が痛くて運動がけっこう制限されるということになると、現実問題としてEMSしか手はなさそうです。



じゃあ質はともかく、運動量として、いったいどれぐらいが必要なんでしょうか。




脳を鍛えるための運動という視点


リモート生活で日常をゼロと仮定するなら、いったいどれだけ運動すればいいのか。

ずっと探していましたが、根拠になりそうなものは、どこにもありませんでした。


ところが最近読んだ『たった12週間で天才脳を養う方法』という本に、少し具体的に出てきました。

うさんくさいタイトルですが、著者はアメリカの脳神経外科医サンジェイ・グプタ氏。CNNのチーフ医療特派員もされていたそうです。



おいおい天才脳? 運動の話じゃないのかよという声が聞こえてきそうです。

でも身体を動かす指令を出しているのは、脳。脊髄反射のように脳まで行かない運動はあるにしても、脳機能がダメならフィジカルがどれだけあっても思うようには動けないはずです。

『たった12週間で天才脳を養う方法』の原題はSharp Brain。日本語タイトルの天才脳ではなく、脳をシャープに保つプログラム、ぐらいに解釈するのが妥当でしょう。


何歳になっても「驚くほど生産的」であるための戦略だとも書かれています。



先に筋肉量は20代半ばがピークと書きましたが、脳も似ているのかもしれません。本書には、「脳の働きは、最大の成熟期を迎える直前の24歳という驚くべき若さから鈍化し始める」とあります。



それでは、その方法の内容です。

12週間プログラムの1週目と2週目は、5つの領域に飛び込むこと。とあります。

  1. 運動を増やす

  2. 積極的に学ぶ

  3. 健康的な睡眠をとる

  4. 食事スタイルを見直す

  5. 人とつながる

このカテゴリーすべてについて、マニュアルではない内容がそれぞれ別項で詳しく書かれていますが、最優先は運動。「運動が起こす奇跡」というタイトルの章で解説されています。



『たった12週間で天才脳を養う方法』に書かれていることは、近年では一般的に広く言われていることですが、とにかく詳しいです。

2009年に出版された『脳を鍛えるには運動しかない!』に、ほぼ同様のことが書かれています。2000年代になって、神経科学の分野では運動と脳と心の結びつきを示す発見が次々に報告されているそうです。




運動習慣のある人ない人別の増やし方


1の「運動を増やす」に書かれていること要約してみます。


まず普段から運動を習慣にしている人向けです。


運動を習慣にしている人は、それを継続しつつ、体を驚かせるために、いつもと違う運動をしてみる。たとえばジョギングをしている人は、水泳やサイクリングに挑戦するとか。

目標は、1日30分以上、週5日以上の運動。週のうち、2、3日は筋トレを取り入れる。


そんな風に書かれています。

定性的な書き方ですが「いつもと違う運動をする」は、よく理解できます。身体が慣れてしまった運動は、それほどの負荷にもならないし、使っていない筋肉や神経回路もそのままになってしまうのでしょう。

しかし1日30分週5日以上で、2、3日の筋トレは、検証されたものなのでしょうか。



この12週間プログラムでは言及されていませんが、「運動が起こす奇跡」の章に書かれていました。こちらは、「長寿への鍵は1日64分の運動」という限定ですが、引用します。


必要なのは、心拍数を高め、筋肉を柔軟にするような運動を習慣的に行うことである。理想的には、最低でも週5日、30分以上の有酸素運動を行うようにしよう。30分のうち20分以上は、心拍数を安静時の基準値よりも30%以上高くすることが望ましい。残念ながら、カートを使ったゴルフは、これにカウントされない。残りの2日間は、リストラティブヨガやウォーキングなどのレジャーを楽しむようにし、とにかく、座りっぱなしの生活を避けてほしい。
さらに、早期死亡のリスクを減らす運動の効果を最大限に得たいと願うあなたには、最新の研究に よる知見を紹介する。それは、週に150分と推奨されている運動の時間を、約3倍の1日1時間強にすることである。これはずいぶん長い時間に思われるかもしれないが、スポーツジムで行う運動だけではなく、さまざまな身体活動の累積時間であることを忘れないでほしい。

この主張は、2015年にアメリカ国立がん研究所やハーバード大学などからなる研究チームによって行われた大規模な健康調査の解析データに基づいているそうです。最終的には50万人以上の成人のデータが得られたそうです。

近年言われる「座りっぱなしの害」は、この研究からの引用だと思います。



それにして、内容も時間も増えてないか? シャープな脳で、さらに長寿も望むなら、それだけ運動しろってこと?


そうなんです。

12週間プログラムでは、パワーウォーキング20分をプラスとか増えたりしますが、ここまでではない。シャープな脳で長寿ということになると、エビデンスのある引用の内容だということのようです。




それでは現在、運動習慣のない人向けにはどう書いてあるでしょう。要約してみます。


座位中心の生活を送っている人は、5〜10分のバースト・トレーニング(30秒間の激しい運動と、それに続く90秒間の休息を繰り返す方法)から始める。目標は週3回以上、20分程度の運動


バースト・トレーニングという言葉は本書で初めて知りましたが、HIITみたいですね。HIITは高強度で20秒、休息が10秒を8回繰り返して4分なので、もしかしたらバースト・トレーニングの方が多少は楽かもしれません。バースト・トレーニングの詳しい説明は、本書にはありません。


バースト・トレーニングは、筋肉はあるけど今は運動していないだけならまだしも、筋肉ぜんぜんないよという人には、危険かもしれません。

HIITに関しては、私の解釈ですが、こちらに書いています。




それぞれの人に必要な運動の量と内容


1日30分以上、週5日以上の運動。週に2、3日は筋トレ。

私は軽くクリアしていますが、脳がシャープかというと、そんなことはありません。年々、認知機能の衰えに怯えています(笑)


『たった12週間で天才脳を養う方法』で求められる運動量や内容は、あくまで脳をシャープに保つということです。しかも運動以外に、積極的に学ぶ・健康的な睡眠をとる・食事スタイルを見直す・人とつながるを求めているのですから、なかなかの難関です。



運動習慣のない人が、いきなり5〜10分のバースト・トレーニングをやるのは大変だと思います。でも激しい運動をしないなら、長時間やるとか代替手段が必要になるはずですが、長時間のリスクもあります。長い時間の有酸素運動の弊害も言われています。

それなら12週間ではなく、24週で徐々に強度を高めていくとか、工夫して、とにかく何かしらやっておいた方がいい。座りっぱなしの仕事なら、そのことが緊急事態です。


もしリモート中心の仕事なら、合気道の稽古を週一回程度しているだけなら、運動習慣があるとは言えないぐらいの運動量。ぜんぜん足りないと考えた方が良さそうです。



なんども書きますが、天才脳ではなく、シャープな脳。それを維持するベースは、運動だということですから、私も最低限そこだけは当たり前にやっておこうと思います。もしかしたらボケ老人の合気道は、最狂かもしれませんが、なりたくないです(笑)

理にかなっていて、しかも臨機応変に素早く動くには、脳だってクリアじゃないと。



『脳を鍛えるには運動しかない!』には、何ヶ所かで武道がいい、みたいなフレーズが出てきます。

複雑な動きがいいみたいですよ。

私が、この二冊から学べた最も有意義なことは、ずっと同じことをしていちゃダメということです。どこにもそんなことは書かれていませんが、脳も身体もあたらしい刺激がないと衰えるだけ、みたいですよ。



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