日産スタジアムにあるスポーツ医科学センターで、『スポーツ中に起こる突発的な事故 〜そのとき指導者に求められることは〜』という講習を受けてきました(といっても3月のことなんですが)。 濃く、とても大事な内容でした。
スポーツ中に起こる突発的な事故の項目は、 ◯突然死(心臓性、動脈瘤破裂) ◯熱中症 ◯脳震盪 ◯過喚起症候群 ◯Side stitch ◯各種外傷
講師の先生は、スポーツ時の突然死を先駆けて研究され、日体協公認のスポーツドクター制度の発足に際し、ガイドラインの策定などにも携わった方だというこの分野の草分けで権威。ご専門は循環器で、後から調べてみると医科大の学長などを歴任され最近まで横浜市スポーツ医科学センター長を勤められていたそうです。どうりで難しい(笑)
いや難しいというよりも、これだけの内容を2時間で学ぶのは、8倍速で高速学習しても無理です。先生も、この講習をきっかけに研究してくださいとおっしゃっていました。
今回は、梅雨やこれからの季節に注意しておくことが必須な「熱中症」について。熱中症ならだいたい理解していると思っていたのですが、そうでもなかったのです。当日学んだことと、その後、調べたことをミックスして書いてみます(今回はというより、熱中症以外のことは難しすぎてとても書けません)。
合気道だと室内だから大丈夫かというと、そうでもないのです。
精晟会渋谷は表参道も中目黒もエアコンがありますので問題ないのですが、この季節、自分も含めて稽古する人の体調に注意しておかないとと感じました。中高校生の部活中の熱中症発生件数を屋外競技と屋内競技でわけると、比率は約7対3。圧倒的に屋外で発生していますが、その半分ぐらいは室内でも起こるのです。
熱中症を予防するための指標・WBGTについて知っておく
WBGTとはWet-Bulb Globe Temperature(湿球黒球温度)の略で、暑さ指数にはこれを用いるそうです。WBGTは、人間の熱バランスに影響の大きい気温・湿度・輻射熱を、乾球温度計、湿球温度計、黒球温度計を使って測定し、算出された温度の指標で、もっともウエイトが高いのは湿度です。 湿度が高いと、汗が蒸発しにくいので危険が増すということです。
WBGTは驚くことに、1954年アメリカで開発されたそうです。海兵隊新兵訓練所で、熱中症のリスクを事前に判断するために開発されました。
私たち日本人は天気予報の予想最高気温だけで「今日は暑くなりそうだ」「昨日よりは涼しいみたい」と判断しがちですが、運動をする環境では、それだとマズイということですね。
しかしWBGTなんて天気予報で発表されない。WBGTを教えてくれるアプリもありません。 でも心配ありません。
環境省のサイトで、気象庁の資料を参照して算出した暑さ指数を地点別に教えてくれます。 暑さ指数(WBGT)の実況と予測
三日後までの予測が出ますし、地方・地点別に駐車場やバス停など想定された環境別でも見ることが出来ます。
ちなみに東京2017年7月7日16時現在の暑さ指数で体育館(エアコンなどの空調設備がない学校の体育館を想定)を選ぶと、30.5℃で厳重警戒です。
WBGTを知って、運動前や運動中の判断にどう活かすか
下の表は、日本体育協会の「熱中症予防運動指標」を元に、私がまとめたものです。
WBGTが21℃以下でも、水分の補給は必要とあります。元の表には「市民マラソンなどではこの条件でも熱中症が発生するので注意する」とあります。たぶん昔の迷信で水分を取るとバテるという人がいたりするので、あえて書かれているのだと思いますが、運動をするなら必ず水分補給は必要です。
WBGT25〜28℃では、「激しい運動では30分おきぐらいに休息をとる」とあります。1時間おきぐらいの休息と水分補給だと遅いということですね。
講習を受けたのは3月ですが、私は5月下旬以降の稽古中、湿度が高いと感じた日は、私が説明することで休んでもらうタイミングを30分おきぐらいにつくり、「水分補給しながら聞いてください」とするようにしています。
というのは、人によって発汗量も体調も違っているからです。
個人個人の事情は、なかなかわからない
私がやっている精晟会渋谷は、始めてまだ1年にもなりません。すると入会してくれる人は、入会する直前はほぼ運動していないという人の方が多いのです。かつては激しく運動していても、ここ3年は何もしていないとか。
『スポーツ中に起こる突発的な事故 〜そのとき指導者に求められることは〜』では、まったく運動していないとどうなるか、運動をやめるとどうなるかというお話もありました。 それによると運動をやめても筋肉は長続きするけれども、なんと心臓・肺・内蔵は1年でもとに戻ってしまうそうです。また「運動習慣はありますか?」と大人に聞くと、ゴルフを週一でやっていると言う人がいるけれども、その程度で健康増進は望めない。運動というより、レクレーションだとのことでした。
精晟会渋谷では、体験のときに運動経験を聞いていますが本人が「ヨガなど軽い運動をしている」といっても、健康面ではどうなのかわかりません。
前日徹夜していたとか、夏バテをしているとかも、ちゃんと見ていないと想像すらできません。熱中症だけではありませんが、慎重に見ていないと思わぬ怪我につながるかもしれません。だから私は水分補給も含めて、休憩代わりに話を聞いてもらい、観察するタイミングを頻繁にとった方がいいと考えています。水分補給も一度にたくさんとると、夏バテしやすいのだそうです。
汗をかきやすい人もいれば、ほぼかかない人もいます。夏バテの原因として、エアコンなどによる体温調節機能の低下もあるそうです。つまりは汗をかかない。汗をかいていないからまだ疲れていないだろうと判断すると、間違ってしまいます。それに顔にはかかなくても、背中はびっしょりになっている人だっています。
ちなみに子どもは大人より発汗機能が低く、あまり汗をかいていなくても、顔が真っ赤になっているときは注意しなければならないとのことでした。
私は複数の武道を平行してやっている時期が長く、何度もありました。週末の昼間、何時間も稽古して電車に乗って歩いて、また別の道場に行く。合計したら平日出勤して帰宅するのと同じぐらい稽古して、それ以上に歩いているなんて期間がありました。梅雨の時期や真夏には、大変な体力の消耗です。でも、そんなことを知る人は自分以外に誰もいません。 運動し過ぎを把握することも、他人からはなかなか把握しづらいものです。
環境省のサイトで把握できるWBGTは、あくまで目安。実際に運動している環境は、さまざまですし、ゲリラ豪雨じゃないですが、急に湿度が上がることだってあります。 指導者は自分の体感を過信せず、稽古している人たちを観察しながら、判断する必要があると思います。
WBGTで紹介している環境省のURLは、「熱中症予防情報サイト」の中にあります。指導されている方は、ご一読をお勧めします。WBGTのメール配信サービスもありますよ。
運動中に、どんな飲料を飲むのがいいのか
高温に高湿度が加わった環境下でのスポーツでは、高体温、低ナトリウム血症などにより、熱中症を起こす可能性が高くなります。
発汗すると塩分も出ているので、水分の補給だけだと体液が薄まるということです。では、どんな飲料で水分補給、ナトリウム補給するのがいいのでしょうか。
講習では、「0.1-0.2%程度の食塩と、5%程度の糖分を含んだものが適当」とのことでした。食塩0.1-0.2%程度とは、100ml中ナトリウムの量が40〜80mgということです。
糖分に関しては、日本体育協会の推奨だと、1時間以上の運動では、エネルギー補給と浸透圧から、4~8%の糖質を含む飲料となっているそうです。
個人的には糖質は用途しだいですけど、どっちでもいいと思っています。1〜2時間の運動でエネルギー補給が必要になるのは、よほどの運動強度だと思います。また吸収が遅くなる早くなるといっても、運動前や運動中に少しずつ飲んでいれば問題ないのではないでしょうか。
高機能スポーツ飲料もありますが、運動後なら意味があっても運動中ではどうでしょう。通常の運動時に飲むのは、シンプルなスポーツ飲料の方が適しているのではないでしょうか。
実際に脱水症状があるときや熱中症が疑われるときは、経口補水液が確実だと思います。
大塚製薬のOS-1は、WHOも推奨している経口輸液組成だそうです(下の画像はアマゾンにリンクしています)。アクエリアスの経口補水液も出ていて、最近はコンビニにも置かれていましたが消えたようです。
私は家から稽古に行くときは、水筒に水を入れて岩塩を少しだけ入れたものを持ちます。
大塚製薬 / 経口補水液 OS-1 オーエスワン 500ml × 6本
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