養神館合気道の六段の允可状と、四段までの指導者資格証をいただきました。
あ、六段って高段位なんだ?
と改めて認識したのは、審査申込書に記入して、松尾正純先生に提出したときです。先生から「高段者の審査は、用紙が違うんだ」と言われました。
用紙が違う? どういうこと? 精晟会で広く使っている審査申込書は、私が作ったフォーマットです。だから意味が分かりませんでした。
「これなんだ」と渡された用紙には、<高段位推薦申請書>とありました。
それを見て、ああ、これが以前聞いた、高段位の審査なのかと気がついたのです。たぶん10年ほど前だと思います。養神館では高段位の昇段審査は、最高師範や道場長など三名の先生方の協議によって行われるようになった。そんなニュアンスの話を聞いていました。
だから養神館では、六段以上が高段者という位置付けでいいのだと思います。
確かに六段以上なら師範になることを申請できるのですから、高段者と呼んでいいと思います。師範は、役職・称号です。六段でも七段でも師範ではない人もいますし、六段師範、八段師範もいらっしゃいます。
五段で申請できるのは、師範代の役職・称号です。
今回は、六段以上の高段位を取得するには、そして指導者資格を得るには何が必要かを書いていきます。将来、高段者になりたい、師範になりたい。あるいは養神館から公認された指導者になりたいと考えている方向けの内容です。
五段までの昇段のプロセス
有段者になってからの、昇段審査を受けられる最低条件は、年数です。
これは平成28年に改定され、以下のようになっています。
現在の段位 経過年数
・初段 → 二段 1年
・二段 → 三段 2年
・三段 → 四段 2年
・四段 → 五段 3年
・五段 → 六段 4年
私自身は四段から五段になったのは、3年強。そこから六段になったのは4年強なので、ほぼ最短で昇段しています。
どれだけ最短で昇段したとしても、初段から六段になるのは12年が必要になります。
実際のところ、入門して20年以内に六段になった人を、私は知りません。40年以上で六段になった人もいます。
私は四段になったときに、もうこれで昇段しなくていい。十分だと思っていたし、そんな大それたこと不要と思っていました。実際、昇段の話をいただいても、お断りしていました。
それなのになぜ昇段を望むようになったかといえば、道場を始めたからです。
精晟会渋谷を立ち上げたのは、四段のとき。ところが経験者が、何人も入会してくれました。ほぼ有段者です。精晟会渋谷で昇段した人たちもいます。
うーん、そうか。私が昇段しないと、この人たちを昇段させることができないんだ。という事実に直面します。
精晟会渋谷は、精晟会横浜合気道会支部傘下の道場ですから、昇級昇段審査は横浜合気道会代表の松尾正純師範にお願いしています。
でも、いずれは横浜合気道会支部傘下から外れ、私が審査するようになります。そうなると四段のままでは、二段への昇段審査までしかできない。このことについては、下の指導者資格に関する文章に書きますが、段位と指導者資格はリンクしているのです。
ともかく四段のままじゃ、まずい。昇段しないと。となりました。
推薦とはどういうことなのか
言うまでもなく年数の条件だけ満たしても、昇段審査を受けられるかどうかは分かりません。昇級や昇段と同じですが、審査をする先生が「受ける力がある。基準に達している」と判断して、受験を勧めないと受けることすらできません。
昇級審査では、まず稽古回数です。精晟会渋谷の場合は、前の審査から概ね24、5回参加していることが最低条件です。出席回数を満たしている人が審査を受ける受けないは、まず私が判断します。それで本人が受けると言えば、審査申込書を提出してもらいます。
実技の審査は、前述の通り松尾正純師範に行っていただいています。松尾正純先生が審査の結果、合格だと判断すれば養神館本部に<推薦>します。この推薦は、他に判断材料もなく、まずそのまま通ります。
審査を受けて落ちることがあるのですか? と、よく聞かれることがありますが、私が横浜合気道会に入って初めて見た昇級昇段審査では、初段審査を受けたふたりの内、ひとりが合格、もうひとりが「もう一度受けようか」となり、驚いたことがあります。 これが本部に<推薦>してもらえない、ということです。
でも六段の推薦は、それまでの推薦とは意味合いが違っています。
<高段位推薦申請書>に書かれる内容
六段以上の<高段位推薦申請書>は、まず受験者本人が基本的な情報を記入します。同じ基本的な情報といっても、それまでの昇級昇段審査申込書とちがうのは、顔写真を貼るところ。履歴書のようです。
そして経歴・活動内容として、「養神館合気道指導者または会員として現在までの活動履歴及び今後の活動予定、抱負」を記入します。
私の場合は、精晟会渋谷を立ち上げて7年以上経ちましましたし、会員数も月の稽古回数も増加しています。来年には、公認支部道場として申請する予定です。等々を書きました。
「養神館合気道指導者または会員として」とありますが、指導をせず会員として教えられているだけで六段を受験することはあるでしょうか。
たとえば師範にずっとついて、指導を受けている人ならあるかもしれません。
道場を持っている人じゃないと、現実的には難しいと思います。
私の先生、松尾正純師範は八段ですが、その弟子で六段七段になった人たちの中に道場を持っていない人は、ひとりだけかもしれません。その人は先生の海外指導に同行して、手伝っていました。
そして、ここからが重要ですが、推薦者名と「推薦者の所見」の項目があります。
私は松尾正純師範に、どう書いていただいたかは分かりません。でも書いていただくということは、ある程度具体的な内容がないと難しいだろうなと思います。
それまでの<昇級昇段審査申請書>が養神館本部に送られる「推薦」は、会社の書類でいえば、いわば決済者に決済・承認された書類が、本社に送られるようなもの。すでに決済されているのですから、あとは事務的に処理されるだけです。
ところが<高段位推薦申請書>では、推薦者がコメントを書いて稟議書を回していると言えると思います。決済はされていません。じゃあどなたが決済権者で、何を決済しているのでしょうか?
「技術審査委員会」が開催される
書き込む以外に、<高段位推薦申請書>には「1分から5分以内の自由技」「2から3本程度の技を指導している指導風景」の映像を、DVDなどで添付するように書かれています。
そして「推薦結果は技術審査委員会開催後速やかに推薦者に連絡される」とあります。
私は毎回稽古風景をSNS用に撮っていますので、映像はいくらでもあります。ただ自由技は演武という感じではなく、稽古の場で説明のために行なっているので、技名を言いながらやっていたりします。それでいいのかと、ちょっと迷いましたが、改めて撮るのもなあと思い、チョイスしてDVDに焼きました。
この映像が実技として、「技術審査委員会」で審査されるのだと思います。
技術審査委員会とは、どなたで構成されるのでしょうか。
最初に書いているように「養神館では高段位の昇段審査は、最高師範や道場長など三名の先生方の協議によって行われるようになった」と10年以上前に聞いていますが、正確にいうと役職名ではなく、個人名で教えられていました。
その方々は、もうお亡くなりになられたり養神館から離れられたりしていますので、「最高師範や道場長」かどうなのかは断言できません。それほど間違ってはいないと思いますが、要するに組織的にトップの皆さんによって、審議されます。
実は、私が<高段位推薦申請書>を、松尾正純師範に提出させていただいたのは今年の8月。
師範は、海外の昇段者と併せて推薦するから、遅くとも9月には本部に推薦するとおっしゃっていました。
結果がわかったのは11月中旬ですから、これはもしかすると不合格かなと思っていました。
タイミングから推測すると、第68回養神館合気道総合演武大会の開催が10月28日ですので、そのあとに「技術審査委員会」が開催されたのだと思います。その前に委員が集まるのは大変かもしれませんし、たぶん技術審査委員会は頻繁に開かれるものではないと思います。
指導者資格とは何か
私が指導者資格を取得したときは、それが何を意味するものなのか、あまり分かっていませんでした。
受けろと言われたから受けただけで、稽古を続けていく上での通過儀礼ぐらいに考えていました。
私は鎌倉・鶴岡八幡宮の研修道場で毎年行っている精晟会指導者研修合宿で、指導者資格の審査を受けさせていただきました、いまはもう泊まれませんし、指導者資格審査も行なっていません。
私の中では、あれほど恐ろしい審査はなかったと記憶されています。恐ろしさのレベルが違います。
実技の審査は、指定された技を、説明しながらと普通のスピードで行うのです。オーソドックスな養神館の技の指導方法です。
それを居並ぶ師範の先生方の前で、そして外国人も含め何十人もの黒帯の前で行います。だから言ってみればメンタルの問題だけですが、何も出来なくなった人もいるほどです。
止まってしまうと、危険です。師範の皆さんが、ああしろこうしろ口々に言い始めます。あんな事態になったら最悪、絶対に止まらないようにと自分に念押しして受験しました。
申請書類の他に、合気道に関する小論文を原稿用紙に書いて提出しました。
私はそれで指導者資格を取得したのです。
そのあとに審査はありません。
どういう仕組みかというと、昇段したら「指導者資格の格上げ」を申請するのです。現在も変わっていませんが、指導者資格とは「昇級昇段審査を行い、養神館本部に推薦する」ことができる資格なのです。
2016年10月以降、指導者資格の取得は養神館本部で行われるようになりました。
その内容を見ていきます。
指導者資格検定審査科目
現在、養神館本部での指導者資格検定は、6月と12月に行われています。
受験資格は初段以上です。
それ以前の行われる講習会で、申し込み用紙が渡され、検定内容の説明があります。この講習会で審査内容のすべてを把握できます。
申し込み用紙には、所属道場の代表者が承認し、記入押印することが必要です。
初段で指導者資格検定に合格すると、四級までの推薦をすることができます。
ただし、指導者資格とは「自身が立ち上げた道場の会員にのみ審査を行い、段位に応じ審査推薦が出来る資格」であるということです。
一応書いておきますが、指導者資格検定はけっこう落ちるようです。かなり難関かもしれません。精晟会関連でも、落ちた人を何人も知っています。この内容なら普段の稽古だけではなく、資格検定に向けた稽古や勉強が必要だと思います。
段位に応じた推薦資格を列挙すると
自分の段位 推薦できる級段
・初段 → 四級
・二段 → 一級
・三段 → 初段
・四段 → 二段
・五段 → 三段
・六段 → 四段
・七段 → 五段
・八段 → 六段
・九段 → 七段
つまり、それなりの段位で指導者資格を持っている人のもとで稽古していないと、高段者にはなれないということです。
そして指導者資格検定の審査科目です。
まず筆記から。
事前に「合気道について」の論文を、400字詰め原稿用紙5枚から10枚程度書いて、審査日までに提出します。テーマは合気道に関することなら何でも自由で、枚数も目安はあるものの制限なしとなっています。
当日の筆記試験。
14項目のテーマが設定されていて、その中から5題出題されます。字数は不明ですが、たぶん200字以内ではないでしょうか。
設定されているテーマは、
・合気道の歴史を述べよ
・養神館合気道の歴史を述べよ
・多人数取りを行う上での心掛けについて述べよ
・座り技の重要性について述べよ
などです。私が、いやぁこれは即答できないなぁと思ったものに「正座法の意義について述べよ」があります。事前に調べておかないと、難問がありそうです。
誤字脱字も原点対象ということですから、普段パソコンやスマホで文字を打つだけの人は、筆記用具で書くこともしておいた方がいいと思います。じゃないと、正確な漢字が出てこないかもしれませんよ。
筆記のあとは実技です。
実技の項目は14あります。
まず左右の構え、基本動作・体の変更から臂力の養成、終末動作のそれぞれ(一)(二)。
その後に指定技が3本、指定指導法、護身技、指定自由技の14項目です。
指定技は50技がリストになっています。そのうち44本は座り技を含むとなっています。この中から3本を行います。
指定指導法は50の指定技の中の、10本があらかじめ選ばれています。
指定自由技は正面、横面、片手、両手、正面突き自由技から5種から1本です。
指定指導法は、次の順番で行います。
技の概要について説明します。
技を通して行います。
技全体の大まかな流れ、概略について説明します。
細かい部分、詳細について説明します。
間違いやすいポイントなど、注意点について説明します。
最後に、再度技を通して行います。
これは大変ですが、養神館の有段者の多くが持っているであろう「養神館合気道技術全集」を見れば、ほぼ完全に説明されています。
指定自由技も解説はありませんが、このDVDに模範となる演武が収録されています。
さらに護身技が加わっています。
指定護身技とは、初耳です。残念ながら、私はこれの参考になる映像なり書籍を知りません。説明には「指定された攻撃に対し、合気道の技を応用利用し対処し相手を制し、うつ伏せに抑える」とあります。
「指定護身技の出題例」と書いてありますので、どこにも記載されていない設定が出る可能性もあります。出題例としては、
相手が前から胸を掴み、殴りかかってきた場合
相手が前から蹴ってきた場合
相手が後ろから腰にしがみついてきた場合
相手が前から両手で首を絞めにきた場合
などがあります。
他にも、「相手が後ろから片手を掴み、もう片手で首を絞めにきた場合」など、稽古でやっている技そのままもあります。でも箇条書きした例は、通常稽古していないでしょう。
精晟会渋谷からも、指導者資格検定を受ける方がいて、どう対処するか聞かれて悩む内容もあります。この護身技を行うのは、受けたことがある人によると1分間だそうです。つまりひとつの方法だけではなく、何種類か対応策を稽古しておく必要があるということですよね。
一般的な護身術ではなく、「合気道の技を応用利用し」というところと、「うつ伏せに抑える」ことなので難易度高いですよね。うつ伏せにするのは、あくまで固め技だと思いますが。
うちから審査を受ける人たちは、もう1ヶ月もありませんが、これから私も大急ぎで研究します。
Comments