1月24日、川崎警察署の武道始式で演武をさせていただきました。とても貴重な経験でした。
写真を見ていただければ伝わると思いますが、来賓がぎっしり。写ってはいませんが、入口などからは大勢の署員の方々の目が、演武に集中しています。
警察署に武道始めがあることは知っていましたが、自分が警察署で演武するなんて初体験ですし、この環境ですから緊張しました。川崎警察署は、かなり大きな署です。
私が緊張した理由、そして武道始式がどんなものだったのか、ご紹介したいと思います。
演武に出ることが決まったのは四日前
12月に松尾正純師範からお話をいただいたのですが、1月24日は火曜日。平日なので、仕事があります。ましてや演武する相手のスケジュールもあるし、演武のための稽古をする時間があるかどうかも、心配でした。即答できないうちに年が明けてしまい、出ないことになりました。
ところが21日土曜日、いろいろと経緯があり急遽出ることになったのです。
しかし時間がない。演武に出るとなると、その分、前後の仕事のスケジュールもびっしりです。そして何より受けをするときは投げられていればいいのですが、私が仕手をするときは何をしようかという問題。頭に浮かんだのは、昨年の養神館の演武大会でやった入身で止める短刀取りです。
でも警察署で短刀取りをするなんて、無謀じゃないか。鼻で笑われるんじゃないかという心配もあります。合気道の演武ですから、斬りつけ方刺し方突き方が決まっています。短刀やナイフを振り回して暴れている相手を取り押さえる逮捕術とは違います。警察官はひとりでは向いませんし、最低限警棒を使うでしょう。だから使い方が限定されている短刀を相手に、徒手でどう止めて、どう抑えて取り上げるかが成立していれば演武する価値はあるんじゃないかと考えました。
それに稽古する時間がないのです。養神館の演武大会の指導者演武では、それなりに稽古しました。
ところが今回は、受けてくれる相手が違う。指導者演武のときの受けではなく、他の道場の代表。重量もパワーもあります。しっかり中心力で止めないと、腕ごと飛ばされてしまいます。かつての大会では、もちろん木で出来た短刀ですが、しっかり止められず、額にささって出血したこともあったそうです。
稽古したのは、21日に仕手受け通して2回。22日日曜日は川崎警察署に行って、入退場等の打ち合わせとともに、1度稽古しました。23日月曜日は自分の精晟会渋谷 中目黒教室の稽古ですが、指導をしているだけでした。
武道始式は、年に一度の盛大なイベント
24日、ひとり川崎駅から歩いて川崎警察署に向いました。警察署の入口には制服の方々が立っています。「武道始式ですか?」と尋ねられ受付の場所を教えられたのですが、実際には顔パスでした。
武道始式が行われるフロアに入ると、人でごった返しています。式はすでに始まっています。
演武のプログラムは、こういうものでした。
1.剣道・柔道高点試合 2.剣道五人掛け 3.柔道五人掛け 4.合気道 5.居合道 6.実戦逮捕術
演武となっていますが、1の剣道と柔道は普通に試合でした。それぞれ署員選抜選手20人がトーナメント形式で戦うのです。部署や先輩後輩ということもあるのだと思いますが、観客の署員で大盛り上がり。ヤジもどんどん飛び、警察署内の剣道大会、柔道大会の様相です。
その様子を見ていて私が演武するときも、がんがんヤジを飛ばして欲しい。「今の刺さってるぞ」とか「手首切られて出血してる」とか突っ込んでくれと思いました(笑)
真面目な話、自分では隙なく、動いている途中でも刃や刃先が届かないよう、当たらないように制御しているつもりですが、どこまで行っても理屈上は成り立つというレベルです。本物の短刀を相手にした経験なんてないのですから、経験のある人の視点で突っ込みがあれば、教えていただいてありがとうございます、ぐらいの気持ちです。リアルなフィードバックがもらえる機会なんて、ないのですから。
それにしても選手の人たちは、けっこう緊張されてるだろうな。署員もだけど、署長や来賓の方々、剣道師範や柔道師範もすぐそばで見られているのだから、大変だと思いました。
そんなことを思いながら見学していると、記録写真を鑑識の方が鑑識のユニフォームを着て撮影していました。気づいて吹き出しそうになりましたが、まったく署員総出のイベントです。
お祭りだというと語弊があるかもしれませんが、警察署にとって年初にふさわしいイベントだと私は思いました。
激しい柔道剣道の試合と五人掛けが終わり、いよいよ合気道です。
私たち養神館師範以下10名(精晟会横浜合気道会と精晟会あざみ野)と、署員で合気道をやられているおふたりが一緒に入場しました。おふたりとも偶然だそうですが富木流で、大学の合気道部出身です。警視庁では養神館合気道が科目として選択できるはずですが、神奈川県警に合気道科目はないそうです。
富木流合気道とは、講道館から合気道に派遣された富木先生がお作りになった流派で、短刀乱取りや徒手乱取りという競技があります。映像では見たことがありますが、実際に拝見したことはありません。最初に、このおふたりの演武です。
徒手の型をやられたのですが、これが激しい。自分たちが正座している目前でやられているのですが、これが型なの? 自由な攻防じゃないというぐらい激しかったのです。その一方で、なるほど警察官らしいとも思いました。
内容にも驚きましたが、この後で自分がやるのかと思うと少し心配です。
そう思いながらも演武が始まると、ほぼ無心。途中、ミスしたと感じたところは何カ所かありましたが、動揺することなく無事終えることができました。
間近で大勢の人に見られている、張りつめた緊張感の中、演武させていただいたのはとても貴重な経験です。緊張していても冷静に動けるか、相手の力の方向などを感じれていられるかは、技そのものよりも大切かもしれません。
最も見たかった実戦逮捕術が始まっていた
自分たちの出番が終わって、着替え、すぐに最後の演武を見に行きました。始まっていましたが、なんといっても実戦逮捕術です。逮捕術を見ることができる機会なんてありません。
ところがです。犯人役らしき人が電話でしゃべっているのです。これは芝居!? そのときやっていたのは振り込め詐欺の設定のようでした。
プログラムをよく読むと、「逮捕術制圧技を交えた防犯寸劇」と書いてあります。そうか、警察が一般に公開するのは、防犯意識を啓蒙する寸劇なんだ。ニュース番組などで少しだけ映像が流れたりする、あれね。制圧シーンは、ほんの一瞬。あっという間に終わります。
それはそうだ。普段やられているわけだから、署員に逮捕術を見せたって意味がない。一般の人に伝えたいのは、犯罪の手口や防犯意識の向上であって、制圧の技術じゃないよねと。
柔道剣道、合気道、居合道と試合や演武ときて、最後は防犯意識の啓蒙。考えてみれば、もっともなプログラムですよね。
そのあと私たちは、控え室で警察名物だという豚汁をいただきました。これが、すごぶるおいしかったです。
武道始式が終わって、交歓会でしょうか、立食のパーティがありました。私は参加せず帰ろうとしていると、その準備に廊下を、寸胴鍋や寿司桶を乗せた台車が次々に通って行きました。
この感じ、私は「踊る大走査線」みたいだよなぁと思いながら見ていました。
スケジュール的にも大変でしたが、警察署内は楽しいことがいっぱいでしたよ。
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